「死後離婚」とは、配偶者の亡くなった後に配偶者の血族(義父母、義理の兄弟姉妹)との親族関係を終わらせる手続きのことです。
この手続きを行うことで、夫の両親の介護義務や義理の親族との関係を法的に解消することができるため、近年、死後離婚を選ぶ女性が増えています。
今回は、死後離婚の手続きを行う際の期限や、手続き後に苗字はどうなるかについて解説していきます。
死後離婚を行う理由や、メリット・デメリットについてもご紹介していますので、義両親との関係や、相続、年金などについて不安や疑問を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
死後離婚に期限はある?
死後離婚の届け出には期限がありません。
死後離婚をするには、市区町村役場に「姻族関係終了届」を提出する必要がありますが、特に期限はなく、配偶者の死亡届を提出した後であれば、いつでも提出できます。
死後離婚の届け出に期限がないのは、配偶者の死亡後に義理の親族との関係を解消する必要性が人によって異なるためです。個々の事情やタイミングに合わせて手続きが行えるよう、特定の期限が設けられていません。
「姻族関係終了届」に必要な書類は以下の通りです。
姻族関係終了届
(各市町村役場に備え付けられているほか、自治体の公式Webサイトからもダウンロード可能) |
・姻族関係を終了させる人の氏名、生年月日、住所、本籍
・死亡した配偶者の氏名、死亡日、本籍 ・届出人の署名・押印 (以上を記入) |
配偶者の戸籍(除籍)謄本 | 配偶者の死亡事項が記載されている |
届出人の現在の戸籍謄本 | 提出先が本籍地の場合は不要 |
本人確認書類 | 運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど |
届出人の印鑑 | シャチハタなどのインク印は除く |
※届け出の際に配偶者の親族の承諾は不要で、死後離婚が成立しても子どもや配偶者の親族には通知されません。
〜期限がないため、焦らずじっくり考えてから決められるので安心です。
死後離婚したら苗字はどうなる?
死後離婚しても苗字は変わりません。
「姻族関係終了届」が受理されると夫の親族との関係は終了しますが、苗字は自動的には変わりません。婚姻前の苗字(旧姓)に戻す場合は、「復氏(ふくうじ)届」を市区町村役場に提出する必要があります。
〜夫や義理の親族との関係を清算したい場合は、「復氏届」を提出することで、けじめがつけやすくなりますね。
死後離婚を行う理由について
死後離婚はどのような理由で選ばれているのでしょうか。
「姻族関係終了届」の届出数は、2010年代ごろから増加傾向にあり、2017年にピークを迎えた後も高い水準を維持しています。
死後離婚を行う人が増えた背景には、義両親の世話や介護を負担させる伝統的な風潮への反発や、親族との人間関係に対する意識の変化などが考えられます。
現代社会では、家族構成が多様化し、個人の意思や選択、精神的な健康が重要視されるようになり、義理の親族との関係が見直される機会が増えています。
〜特に上の世代では、残された妻が義両親の面倒を見るのが当然と考える方が多いですよね。死後離婚の選択は、女性にとって不利な慣習を見直すきっかけになっていますね。
死後離婚を行う理由
死後離婚を行う理由はさまざまですが、主な理由として以下の例が挙げられます。
1)介護の負担を避けたい
夫の死後も嫁が義両親の世話をするべきだという考えは根強く残っていますが、残された妻が義両親の扶養や介護を行っても、財産を相続する権利はありません。
特に義両親との関係が良好でない場合、介護の負担が大きく感じられることが多く、十分な見返りが期待できないのであれば、死後離婚によって義理の親との縁を切りたいと考える人が増えています。
2)義理の親族との関係を解消したい
もともと夫婦仲が悪かったり、義理の親族との関係が良好でなかったりした場合、夫の死後も親族との関係を続けることに負担や煩わしさを感じることがあります。
義理の親族との関係に区切りをつけ、精神的な負担を軽減するために、死後離婚を選ぶ場合があります。
3)トラブルを未然に防ぎ、新しい生活を始めたい
義理の親族との関係が続くことで、相続や財産に関するトラブルが発生する可能性があります。これを未然に防ぎ、親族との関係を清算して新たな生活をスタートするために、死後離婚を選ぶことがあります。
〜たとえ夫婦仲や義両親との関係が良かったとしても、夫との死別後に義両親の面倒を見ることに、まったく抵抗を感じないケースは稀ではないでしょうか。より良い将来のためには、自分の気持ちに正直に対応することをおすすめします。
死後離婚のメリット
ここでは、死後離婚を行うメリットについてご紹介します。
1)義両親の介護や扶養の義務から解放される
夫の死後、義両親や義理の兄弟姉妹の扶養義務が発生することがありますが、死後離婚を行うことでこれらの負担から解放されます。
2)義両親との同居を解消し、新たな生活をスタートできる
夫の生前に義両親と同居していた場合、夫の死後も同居を続けるケースがありますが、義両親との関係が良好でないと、同居は大きな精神的負担となります。
死後離婚を行うことで法的な扶養義務がなくなるため同居を解消しやすくなり、新たな生活をスタートできます。
3)祭祀継承者にならなくて済む
祭祀継承者は先祖の供養や墓の管理、仏壇の世話などを引き継ぐ必要があります。夫との死別後妻が祭祀継承者となる場合がありますが、死後離婚を行うことで、精神的・経済的負担の大きい墓の管理や祭祀の責任から免れることができます。
4)夫の遺産や遺族年金を受け取れる
死後離婚の手続きを行った後でも、「配偶者」である妻は、亡くなった夫の法定相続人として遺産を相続することができます。また、死後離婚を行っても、遺族年金の受給資格に影響はなく、受給資格はそのまま維持されます。
5)夫との関係や姻族関係を整理できる
夫婦関係が良好でなかった場合、死後離婚をすることで夫との関係を精神的に整理できます。義実家と距離を置くことができ、法事などのイベントに出席する必要がなくなるため、精神的なストレスを軽減できます。
〜お墓の管理の経済的な負担は重く、特に遠方にある場合は時間的な負担も大きくなります。祭祀の責任から解放される点は、死後離婚の大きなメリットですね。
死後離婚のデメリット
死後離婚にはさまざまなメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
1)死後離婚は取り消しができない
「姻族関係終了届」が一度受理されると、以降は取り消すことはできません。終了した親族関係を元に戻すことは不可能なため、死後離婚を決断する際は慎重に検討することが重要です。
2)義理の両親や親族に頼れなくなる
死後離婚をすることで義両親の介護や扶養の心配はなくなりますが、将来的に義理の親族からの援助やサポートを受けられなくなる可能性があります。義両親による子供の面倒や、経済的な援助を期待できなくなるため、精神的な孤立を感じることがあります。
3)自分のお墓を準備しなければならない
死後離婚をすると、お墓の管理義務から解放されますが、夫の墓参りや法要への参加がむずかしくなり、自分が亡くなった後のお墓の準備も必要になります。
亡くなった夫が義実家のお墓に埋葬されている場合、夫とは別のお墓に入ることになるため、夫婦関係が良好であった場合は悩ましい問題となります。
また、亡くなった夫の祭祀(墓地・仏具・位牌)を継承していた場合、夫の親族と話し合い、死後離婚後の祭祀継承者を改めて決める必要があります。義理の親族との関係が良好でない場合は、協議に参加することが精神的に重い負担となる可能性があります。
4)子どもとの関係が悪くなる可能性がある
子どもが血縁のある祖父母や親族と親しい場合、父親の死後に離婚する理由について疑問や不信感を抱くことがあります。死後離婚を行う際は、関係を良好に保つためにも、子どもと十分に話し合い理解を得ることが大切です。
また、死後離婚をしても自分の子供と夫の親族との血族関係は続き、義両親が亡くなった場合は、子どもが亡くなった配偶者に代わって代襲相続することになります。さらに、将来子どもが義両親の世話を頼まれる可能性もあります。
死後離婚は子どもにも大きな影響を与えるため、慎重に判断して決める必要があります。
※代襲相続=相続人が相続開始前に死亡している場合、その相続人の子ども(孫)が代わりに相続すること。
5)夫の借金返済の協力を得られにくくなる
死後離婚をしても夫の遺産は相続できますが、夫に借金がある場合、その借金も相続の対象となり引き継ぐことになります。義理の親族との関係が終了するため、借金の返済について協力や援助を受けられなくなる可能性もあります。
相続放棄をすることで、借金を含むすべての相続財産を放棄できますが、相続放棄の手続きは、死後離婚の手続きとは別に、夫の死亡を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。
〜借金の額によっては、遺産を相続することでかえって損をする可能性があるので、相続については慎重に確認する必要があります。
まとめ
今回は、死後離婚を行う際の期限や苗字の変更、メリットやデメリットについてご紹介しました。
死後離婚の手続きには期限がなく、届け出後に自動的に苗字が変わることはありません。
義両親の介護や同居、義理の親族関係から解放されるメリットがあり、夫の遺産や遺族年金もこれまで通り受け取ることができます。
一方で、死後離婚は取り消しができず、自分が入るお墓の準備や、相続の問題で別途手続きが必要になるなどのデメリットもあります。
死後離婚は家族関係や祭祀、相続の問題などに大きな影響を及ぼすため、慎重に判断して決めることをおすすめします。
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